「天体の回転について」 小林泰三

天体の回転について (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

天体の回転について (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

   そんなことを言ってると、科学者になっちまうぞ!!

 

奇想SF短編集

内容

「天体の回転について」
  少年が萌えキャラと軌道エレベータに乗る話
「灰色の車輪」
  ロボット三原則とかギャグじゃね?
「時空争奪」
  時空はどこからはじまってどこにいくのか?
他、全八編のSF短編集

感想

ずっとニヤニヤしながら読んでました。
海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)とはまたちがった趣になっています。
叙情が消えて滑稽になった感じでしょうか。かわいそう(笑)みたいな。
 

妄想

「天体の回転について」の少年は今の時代に生まれれば、科学を愛し、
初音ミクに恋していたろう……多分。
 
ベスト短編は「あの日」
大笑いしてしまった。
作家志望の学生と先生とのやりとりなんだが、実に腹が痛い。

   「わたしはミステリ作家にむいていないんでしょうか?」

あれでミステリて。しかもこの作者が密室・殺人 (角川ホラー文庫)書いてると思うと二重に笑える


 

「シュレディンガーのチョコパフェ」 山本弘


シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫JA)

  ああ、彼女が降臨した! 妄想ではない本物の彼女が

 

正統派SFヨタ話

 

内容

七編のSF短編集

シュレディンガーのチョコパフェ
  流行のオタク女との恋愛+世界崩壊系SF
・奥歯のスイッチを入れろ
  漫画やアニメでよくある高速移動を厳密に考察してみた
・バイオシップハンター
  異星文化交流
メデューサの呪文
  言葉ってすごくね?
・まだ見ぬ冬の悲しみも
  過去に戻るとこういうこともあるかもね
・七パーセントのテンムー
  脳のはたらきからあることが分かったが……
・闇からの衝動
  怪奇小説っていいよね、あと触手いいよね

 

感想

実にSFらしいSFです。新しい理論を使いながらも、話の作り自体はいわば「古き良き」構成で、
安心して読むことができました。「神は沈黙せず」も傑作でしたので、どうも山本弘の評価を、
「トンデモの人」から「SF作家」に改めなければならないようです。
まあ、しいて難点をあげるとすればあれでしょうかね、なんというか……
「ふ〜ん、じゃあ動力は何よ? 小型核融合炉? はっ、テラワロスwwwww」
的なねえ、細かく書いてあるがゆえに、他の箇所にまで突っ込まずにはいられないというか
そんな嫌な読者になってしまうことことでしょうか……
 

妄想

・奥歯のスイッチを入れろ
よく「消えた!」「後ろだ!」なんてあるけどあれを実際に科学的に考察してみましょう
という話なんだけど、あれだよね。
このノリでテニスの王子様とか考察してほしいよね。

一瞬、ラケットの先端に光を屈折する透明なバリヤーのようなものが生じたのが見えた。衝撃波が発生したのだ。打ち返したボールは音速に達した。衝撃とともに飛び出したボールの反動で、僕の体は後ろに押される。力の方向はほぼ正確に僕の重心と一致していた。体にはゆるいスピンがかかったものの、これくらいなら制御できる。

みたいなやつが読みたい
・七パーセントのテンムー
文庫で追加となった短編だが、これはひどい
話の通じない人間(要するにあいつらである)を全部まとめて障害者扱いするという大技。最高だぜ!
どうでもいいが元ネタのユーザーイリュージョン―意識という幻想バキにもでてきたよね

訃報 カート・ヴォネガット

「理解しようなんて思うんじゃないよ」と彼は言った。
「理解したふりをすればいいんだ」

ヴォネガットタイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262)と、猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)しか読んでませんが、感想を書いておきます。
タイタンの妖女」は人類の存在意義を、「猫のゆりかご」は世界の終末をテーマにした作品です
こう書くと、随分壮大で重厚な作品かと思われるかもしれませんが、
実際はもっとこう、もやもやとした、あいまいで、人を食ったような話です。
これで結局そんな話かよ、みたいな。
そしてそれが適度に心地よく、深い。
これから読む人は、あんまり構えず、気楽に読み始めることをおすすめします。

「膚の下」 神林長平 


膚(はだえ)の下〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

膚(はだえ)の下〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

膚の下 (下)

膚の下 (下)

「われらは、おまえたちを創った。
 では、おまえたちは、なにを創るのか?」

   

キカイ系SF

内容

あなたの魂に安らぎあれ (ハヤカワ文庫JA)」、「帝王の殻 (ハヤカワ文庫JA)」に続く火星三部作完結篇
人造人間が、人間同士の争いに巻き込まれながら、自分探しをする話。
ついでに地球も救う。
笠井潔による17ページにわたる解説つき

 

感想

三部作の第一作であり、著者の初長編でもある「あな魂」も素晴らしい作品でしたが、
それから二十年、筆力は衰えるどころかすでに完成の域に達しています
まさしく、大傑作。
ピノキオは人間になって本当に幸せだったのか」というのはキカイダーですが、
そんな悩みはさっさと捨てて、主人公のアンドロイドはアンドロイドとしての生き方を模索します。
それは、被創造物から創造者になること。
神林長平がもっとも重視している「創造」というテーマです。
これが、想像以上に重いのですが、読みにくさも分かりにくさもほとんどありません。

上下合わせて1200ページ、実に幸せな時間を過ごすことができました。
 

関連書籍

刊行順は、「あな魂」→「帝王」→「膚」ですが、時系列は、「膚」→「帝王」→「あな魂」。
しかし「膚」での「あな魂」のネタバレはわりと致命的な感じなので、刊行順に読むのがベストかと。
  

妄想

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「アヌビスの門」 ティム・パワーズ

アヌビスの門〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)

アヌビスの門〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)

アヌビスの門〈下〉 (ハヤカワ文庫FT)

アヌビスの門〈下〉 (ハヤカワ文庫FT)

 そうだとも! つまりはそういうことなのだ!

   

伏線回収タイムトラベルスチームパンク

内容

 19世紀のイギリスに時間旅行に行ったら、置いていかれた。
 イギリス転覆を狙うエジプトの魔術師から、帰る方法を聞きだしてやるぜ。
 

感想

 スチームパンクな雰囲気は大変に良いです。
 しかし、本書の最大の魅力は、凄まじいまでの伏線回収です。
 時間旅行と魔術の設定を駆使して、常に読者の予想を翻弄する超絶技巧。
 全編通して、「ああ、そうだったのか」と思いっぱなしでした。
 帯の「時間旅行冒険譚の最高傑作!」という謳い文句も決して誇大広告ではありません。
 
 絶版だったのが2004年に再販になったので多分まだ手に入るはず。
 

「神は沈黙せず」 山本弘

神は沈黙せず(上) (角川文庫)

神は沈黙せず(上) (角川文庫)

神は沈黙せず(下) (角川文庫)

神は沈黙せず(下) (角川文庫)

   
和製トンデモイーガン
 

内容

 超常現象って一体何なの? それはね、神様が……。
 

感想

 トンデモなSF小説かと思ったら、SFなトンデモ小説でした。
 どう考えてもオカルト比率が多すぎです。だが、それがいい
 これから読む人は著者のサイトの、これから読む人への解説も参照。
 

妄想

 この小説の裏テーマは、
 「てめーら真実なんてどーでもいいんだろ、だったら最初からそう言え馬鹿」
 であり、アレげな人達に対して随分ストレスたまってるんだなあ、と思いました。


 ・関連書籍

美しい星 (新潮文庫)

美しい星 (新潮文庫)

 「神は沈黙せず」が“トンデモオカルトSF”なら、本書は“トンデモオカルト純文学”という、
 まさに存在し得ないオーパーツ
 傑作。文豪ナビ 三島由紀夫 (新潮文庫)で黙殺されていて泣きました。